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朝からの強い日差しの中、大勢の人が日傘を差して行き交っていた=2025年6月17日午前9時11分、東京・新橋、吉本美奈子撮影

 地球温暖化で猛暑日が増えているが、警戒が必要なのは、熱中症だけではない。全国の入院患者のデータや気象データなどをもとに、温暖化と健康被害について研究している東京科学大の藤原武男教授(公衆衛生学)に注意点などを聞いた。

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「脱水」と「炎症」が大きく影響

 ――温暖化で健康被害が増えるのはなぜですか?

 暑さによる病気悪化のメカニズムは、大まかに言うと「脱水」と「炎症」で説明できるだろう。脱水が起きると細胞が正常に働きにくくなる。また、暑くなると酸化ストレスが増えて炎症が起こる。温暖化は熱中症だけでなく多くの人の様々な疾患リスクを上げる。妊婦や高齢者、子どもら脆弱(ぜいじゃく)な人たちには、より大きな影響を与える。

 ――4月に発表された最新の論文では、妊婦の常位胎盤早期剝離(はくり)のリスクを指摘しています。

 出産前に胎盤が子宮からはがれ、母子の生命にかかわる危険がある病気で、暑さ指数(WBGT)が高かった日の翌日にリスクが一時的に上昇することを統計的に実証した。数日後に発症するはずだったのが、猛暑で前倒しになった可能性が考えられる。特に妊娠高血圧症候群や胎児発育不全の妊婦で影響が強い。

 ――なぜリスクが上がるのですか?

 発症が前倒しとなった可能性の背景には、脱水で子宮に届けられる血流が減ると分娩(ぶんべん)が誘発されることがある。また、胎盤は赤ちゃんにとって命綱だが、脱水で血液と栄養が届きにくくなって微小な血栓ができ、胎盤自体がはがれてしまう。放っておくと赤ちゃんに酸素がいかなくなり、死産になる可能性がある。

 ――どう対応すればよいですか。

 急におなかが痛くなったり血が出ていたら、すぐに病院に行く。早く見つければ母子の命を助けられる病気だ。

 予防には、暑い日には外に出ないことと、水分をしっかり補給すること。少しでも異常を感じたり、のどがかわいたりして脱水の傾向があれば、休養をとり、心配ならばちゅうちょせずに産婦人科に行く。

 出産データを分析したところ、猛暑だと早産のリスクが上がる。日平均気温が30.2度のときは16度のときに比べて早産リスクは8%増えた。暑い日にはやはり外出を控えるのがよい。

糖尿病の重い合併症も

 ――持病がある高齢者らはいかがですか?

 糖尿病患者さんは特に注意してほしい。これまでも猛暑で死亡リスクや入院リスクが上昇するとされてきたが、糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群などの重い合併症による緊急入院のリスクが上昇する。日平均気温が22.6度に比べ、30度ほどのときには1.65倍程度も上昇した。高血糖性の合併症は、脱水で血糖値が高くなっていて、意識障害を起こす。

 ――子どもたちは?

 腸重積症という救急受診が必要な、子どもの病気があるが、5歳以下では、日平均気温が極めて高いときの入院リスクが、最もリスクが低いときに比べ、約4割上昇した。暑さによる食生活の変化や腸の動きの変化が関係しているとみられる。

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強い日差しが照りつける中、公園で水遊びをする子どもたち=2020年8月、群馬県伊勢崎市

 また、主に乳幼児で見られる、全身の血管に炎症が起こる川崎病も、極端な暑さにさらされると入院リスクが33%増加した。

 子どもは体重あたりの体表面積が大きいのでとりわけ暑さの影響を受けやすい。さらに、胎児期、幼少期の影響が長期的に残ることを忘れてはならない。

記事後半では藤原さんたちのチームによる研究成果を、出典も含めて紹介します。

 ――温暖化とアレルギーの病…

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